<人文学報>多義成立の一考察 : 「かなし」の語史と關聯して
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概要
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言語の世界での意味のあり方には色々ある。如何なる様態にも我々の精神が關聯するが,中でも人間の持つ根本的な情意を表現するに際して,我々がどんな風に日本語を操つて來たかは,その負ふ意味が意味だけに興味がある。「かなし」といふ情意性形容詞の歴史は,さうした問題を十分に考へさせる。この語は,古くは當時の人の自然觀照や愛情の感覺をも律した。又ある時には経済状態の表現にも好んで參與した。「かなし」なる情意表現は,かく廣範圍な生活場面に滲透したのであるが,そこには形容詞の多義性に特有な焦點が浮び上つてくる。異質の分出と諦めず,執拗にあらゆる場面を追ひかけてゆく本源の情意の力と,ともすればうけがちな場面からの影響力との絡み合ひが不思議な多義のあり方を示す。その二つの力の緊張關係に,獨特のニュアンスが漂ひ,他語置換不可能の複雜な意味が生じる。更に,本來の意味の追求力と,場面の影響力との種々な比率が關聯して,この「かなし」は各時代各様の問題を提起してゐる。
- 1952-02-20
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