沖繩におけるパインアップル作の農業気象学的研究(農業工学科)
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概要
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沖縄は, わが国においてパインアップルが主要作物として栽培される唯一の地域である。しかし, 果実生産量から見ると1960年代の半ばごろから栽培は軌道に乗ったと言える。沖縄は亜熱帯の中でパインアップルの栽培北限に近い所にあって冬季の気温は必ずしも十分でなく, また, 台風, 干ばつ及び豪雨などの気象災害がある。このような気象環境下でパインアップルが安定した作物になり得るか否かを研究することは, 栽培の将来性を見るために重要である。この研究は, 沖縄におけるパインアップル作の適地性を農業気象学的に研究し, 更に, 栽培技術改善の基礎となる情報の提供を目的としたもので, 研究結果の要約を各章ごとに示すと次のとおりである。1)沖縄におけるパインアップル作と気温及び地温品種スムースカイエン(Smooth Cayenne)の苗を使用し, ポット栽培の供試体により出葉数と気温との関係を研究した。月間出葉数と気温との間に密接な関係があり, これは次の実験式で表わすことができる。N=18.13×log_<10>T/11.67ここで, N : 月間出葉数, T : 月平均気温℃である。この式を使用して各地の月平均気温から年間出葉数を計算し, これによって気温から見た適地性を沖縄, 台湾及びハワイの間で比較した(表2,図6)。それによると, 気温環境は沖縄島付近は台湾中部に匹敵し, 八重山は台湾中部よりよい。しかし, 沖縄各地ともハワイには及ばない。台湾では南部を除き時には霜が降りるが, 沖縄は無霜地帯にあり, この点では沖縄は台湾より有利である。地温についての適地性を見るために, 渡辺^<77)>とPlatts^<45)>の実験及び栽培結果に基づき, 根の生長に必要な地温を21℃以上として, 各地で地表面近くの地温が21℃未満の期間を求めた(表9,図11)。この期間はハワイで1月上旬-中旬に11日間, 台湾南部では全くなく, 台湾中部で12月中旬-3月上旬に83日間, 八重山で12月上旬-3月中旬に105日間, 沖縄島で11月中旬-4月上旬に148日間になっている。この期間は苗の植え付けに適せず, また, 既に生育中の植物体の根の生長も緩慢になる。2)沖縄におけるパインアップル作と降水量降水量の月別分布を各地の間で比較すると, 沖縄は各月とも100mmを超えて著しい偏りがない。これに対して台湾中部及び南西部では秋から冬にかけて著しく少ない。ハワイでは地形の影響で地域差が大きく, その中でパインアップル栽培地域では夏季の降水が著しく少なく, かんがいにより補っている所が多い。パインアップルは長期間の渇水により生育が遅れる(VI章)ので, 降水量に関する限り, 沖縄は台湾やハワイより好条件となっている。パインアップルに対する適正かんがいの資料とするため, 沖縄の渇水時降水量について統計解析を行なった。(1)渇水ひん度は10月-11月が最も大きく, 6月-8月と4月がこれに次ぐ。2月-3月はひん度が最も小さい。(2)任意の連続30日間, 45日間, 60日間及び90日間降水量のリターンピリオドを季節別に求めると表11に示すようになる。(3)日降水量5mm未満の日を干天日と定義して連続干天日数のリターンピリオドを求めると表12のとおりである。沖縄の降水量は平均値から見ると季節的分布にも平面的分布にも恵まれている。しかし, 長期間続く渇水はかなりひんぱんに起こっており, その傾向は夏と秋に著しい。実験の結果(VI章)は, パインアップルは長期間の渇水により生育が遅れるので, 一般に夏から秋の渇水時にはかんがいは必要である。3)沖縄におけるパインアップル作と日射量水平面日射量平均値を累年の日照率平均値と平均雲量から推算した資料と, 野瀬ら^<38)>が実験から得たパインアップルの光飽和点の資料とに基づいて解析した結果次の事が明らかになった。(1)沖縄の年間日射量推算値は130.5k lyでわが国で最大であるが, 春と冬の日射量は九州地方とほぼ同程度で緯度が低い割に小さい。春, 梅雨期及び冬の各月の日射量は年による変動が大きく, 毎年安定した量が得難い。(2)沖縄の日射量を世界の主なパインアップル栽培地における値と比較するとかなり小さい(表14)。(3)水平面日射量の全量Rとパインアップルの光飽和点に相当する日射強度まで積算した水平面日射量R_pとの間には, 月合計では次の形で表わし得る関係が認められる。R_p=alog_<10>R/bここで, a, bは光飽和点で決まる実験常数である。(4)前項の式を利用して, 沖縄, 台湾及びハワイの各地についてパインアップルの光合成に直接利用可能とみなされる日射量の割合を求めると, 沖縄は春と冬にこの割合が小さく台湾やハワイに及ばない(表18)。上記の事から, 沖縄では新品種の導入, 育成及び栽培技術改善などによって日射量の不十分さを補う必要がある。次に, 沖縄におけるパインアップル畑の2,3の熱収支特性測定実験を行なった結果次の事が明らかになった。
- 琉球大学の論文
- 1977-12-01
著者
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