樹冠量が異なるリュウキュウマツの木部形成と年輪構造に関する研究(林学科)
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概要
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この研究では, 保育技術を確立するための理論的根拠を得ることを目的とし, 枝打ちや除伐, 間伐が木部の組織構造におよぼす影響を木部形成との関連で検討した。木部形成はシュートの生長や樹冠量と密接な関係があると考えられるので, まず, この研究の実験材料であるリュウキュウマツの一般的な生長パターンを明らかにするため, 補足的にスギ, ヒノキを加え, 樹冠上部における伸長生長経過と胸高部位における木部形成経過を観察し, 次の結果を得た。(1)芽が開き始めるのとほとんど同時に形成層は活性化し, シュートが盛んに伸長しているときには形成層活動は活発である。しかし, シュートの伸長生長が停止すると(リュウキュウマツでは冬芽形成が終りに近づくと), 形成層活性は低下する。(2)シュートや針葉が急速に伸長しているときには早材が形成され, それらの伸長が大部分完了すると(ヒノキでは伸長が止まった後)晩材形成が始まる。したがって, 伸長生長の様式の違いによって木部形成経過に差異が認められるが, 個々の樹種ではシュートの生長と木部形成経過は季節的に対応しているとみることができる。次に, 樹冠量と木部形成との関係を検討するため, 下刈以外の保育がなされていないリュウキュウマツ林分を対象に, 樹冠量の違いが胸高部位の木部形成経過におよぼす影響を調べた。(1)枝下高や形成層の単位表面積当りの葉量の指標Lw/DHと形成層活動期間の長さとの間に相関がみられ, 枝下高が低くLw/DHが大きい個体ではほぼ1年中形成層活動が行なわれるが, 枝下高が高くLw/DHが小さい個体では形成層活性の開始時期が遅れるとともに停止時期が早くなる傾向が認められる。(2)枝下高が高くLw/DHが小さい個体では, 枝下高が低くLw/DHが大きい個体よりも, 早材細胞の半径径が小さいうえ, 比較的早期から半径径の減少と接線壁厚の肥厚が始まり, 晩材率が高くなる傾向がみられる。また, 別のリュウキュウマツ林分で枝打ちを行ない, 樹冠量減少が木部形成経過におよぼす影響を胸高部位と樹幹上部(頂端から5番目の枝間)の2ケ所で観察した。(1)強度の枝打ちを行なった個体の胸高部位では, 木部細胞の形成開始時期が遅れ, 一生長期をとおして形成される木部細胞数も少ない。特に早材細胞数の減少割合が大きく, 晩材率は高くなる。(2)樹幹上部の木部形成経過にはほとんど枝打ちの影響が認められない。したがって, 枝打ちが木部形成経過におよぼす影響は, 樹冠から樹幹の基部へ向って樹冠からの隔たりが大きくなるにつれて, 増大すると考えられる。(3)無処理の個体では, 樹幹上部から下部へ向けて形成層の活性が停止していくが, 枝打ちした個体では, 樹幹上部よりも下部の方が活性停止の時期が早い。以上のことから, シュートの生長や樹冠量と木部形成との関わり合いが明らかになり, 枝打ちや除伐, 間伐による樹冠量コントロールは木部肥大生長だけではなく, 木部の性質まで変えるとみなされた。そこで, 次に, 上述の下刈以外の保育を受けていない林分で, 樹冠量と胸高部位の最外年輪の構造との関係を調べ, 次の結果を得た。(1)Lw/DHが増大するにつれて, 年輪幅や形成層細胞の分裂回数, 新生細胞の半径径, および年輪の半径方向1細胞列当りの木口面壁面積は増加するが, 壁率および容積密度数は減少する。(2)年輪幅は形成層の木部側で起きる細胞分裂の回数によってほとんど決まる。(3)接線壁厚の年輪内変化パターンはLw/DHの大きさによって差異があるが, 早・晩材別の接線壁厚はLw/DHの大きさとは関係なく各個体間で大きな違いは認められない。(4)Lw/DHが大きい個体では早材仮道管長が短いが, 個体間で晩材仮道管長の差異がほとんどみられない。しかし, 早・晩材別フィブリル傾角ともLw/DHが小さい個体では小さくなる傾向が認められる。また, 同林分の一部で枝打ち, 除伐試験を実施し, 主として実施前1年間と実施後2年間の年輪構造を調べ, 次の結果を得た。(1)年輪幅は枝打ちによって減少し除伐によって増加するが, 枝打ちや除伐が年輪幅におよぼす影響は樹冠内よりも枝下で大きい。(2)除伐は容積密度数を減少させ, 枝打ちは増加させる。しかし, さらに強い枝打ちでは容積密度数は減少する傾向がみられる。この点については, 今後の研究が必要である。(3)除伐によって仮道管長は減少し, フィブリル傾角は大きくなる。しかし, この研究では枝打ちが仮道管長, フィブリル傾角におよぼす影響をほとんど認めることができなかった。この原因としては, 単木の直径生長が低下しつつある高密度の林分で実験を行なったためと考えられ, 仮道管長やフィブリル傾角が大きく影響を受けるかどうかは, 単木の生長状態と枝打ちや除伐の程度によって決まると推定される。以上の結果から, 保育の程度にもよるが, 枝打ちや除伐, 間伐は年輪幅, 晩材率, 容積密度数, 仮道管長, フィブリル傾角に影響を与え, 木部の性質を変えることが明らか
- 1983-11-19
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