沖縄における土地利用の地域別分析 : (第 2 報)大東諸島,宮古諸島及び八重山諸島における土地利用
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概要
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以上,1985年以降の地域別の土地利用について,土地利用方式及び経営方式の推移を検討した。この結果,この10年間にそれぞれの地域が独自の展開を見せていることが明らかになった。1985年から94年にかけての農業の動向を,土地利用に関する視点から地域別に整理すると次のようになる。耕地利用率は,沖縄県平均で1985年の106.1%から94年には17.9ポイント低下して88.2%になっているのに対して,大東地域では11.2ポイント低下して96.4%,宮古地域は15.4ポイント低下して100.8%となっており,低下の度合いが県平均より小さいとともに耕地利用率が県平均を上回っている。一方,八重山地域では23.5ポイント低下して88.6%となっており,耕地利用率は県平均と同じ水準であるが,低下の度合いは県平均をかなり上回っている。耕地利用率が低下するということは資源としての土地が生産的に利用されていないということを意味する。したがって,現実の農業経営もしくは農業生産がどのような方向にあるかは,耕地面積と作付延べ面積の変化もあわせて検討する必要がある。1985年から94年の間に耕地面積は大東地域で0.3%,宮古地域で3.4%,八重山地域で9.8%それぞれ増加している。他方,作付延べ面積は大東地域で10.1%,宮古地域で10.3%,八重山地域で13.2%減少しており,両者の動向には乖離がみられる。このことをさらに農家1戸当たりの要素としてとらえると次のようになる。まず,農家1戸当たり耕地面積の動向では,1985年から94年の間に,大東地域は4.7%の縮小となっているのに対し,宮古地域では25.2%,八重山地域では28.5%とそれぞれ拡大している。また,農家1戸当たり作付延べ面積では,大東地域で14.6%の縮小となっているのに対し,宮古地域では9.0%,八重山地域では1.5%とそれぞれ拡大している。この結果,1985年から94年にかけての農家1戸当たり耕地面積と作付延べ面積の推移をみると,大東地域では耕地面積,作付延べ面積ともに減少しているが作付延べ面積の方がより減少率が大きく,宮古地域及び八重山地域では両者とも増加しているが,耕地面積の増加率が作付延べ面積の増加率を上回っているという関係がみられる。このように1985年から94年の期間に,耕地利用率が急速に低下した背景としては,次の三つの点があげられる。第1に,この時期に急速に進んだ円高・ドル安で,農産物の内外価格差が拡大し,国内農産物の価格の伸びが低迷したこと,第2に,農外の労賃水準が上昇し,農業経営が雇用労働力を確保しえなくなったこと,第3に,農産物価格の伸びの低迷と労賃水準の上昇が農業経営の収益性を低下させたためである。特に,サトウキビやパインアップルなどの土地利用型の原料作物で,その影響は大きかった。このような経済環境の変化に対して,一般的には,経営耕地規模の拡大と生産性の向上を図ることが基本である。既に述べたように,沖縄県にあっては耕地面積の拡大と農家数の減少を要因とする農家1戸当たり耕地面積が拡大する過程において,集約的作物の作付け面積が拡大するとともに,土地利用型作物の作付面積が減少している。この結果,農家1戸当たり耕地面積の伸びに比べて作付延べ面積が伸び悩み,耕地利用率を低下させることになっている。従って,沖縄県においては農地供給の可能性が拡大していたものの,それを具体的にフォーローする技術体系や作付方式の改善が後れ,経営耕地規模の拡大へ進みえなかったものとみられる。以上のことを踏まえて,前報で分析した沖縄本島の北部地域,中南部地域及び本島周辺離島を含めた県全体の土地利用の形態とその課題につてまとめておきたい。沖縄県の農業は,1960年代に「甘蔗単作型」の土地利用方式を形成し,製糖工場を核とした「疑似プランテーション」を形成した。復帰後は,1975年を境に,野菜や花卉の作付けが拡大し「単一作的多角型」の土地利用方式を形成する。特に,1985年以降の農業を取り巻く経済環境が変化する過程で,価格が伸び悩む土地利用型の加工原料作物(サトウキビ・パインアップル)が減少し,代わって,自由市場商品作物が導入された。この結果,地域的には作物が多様化し,多角化の様相をみせている。もっとも,それは地域的には多様な展開を示している。すなわち,各地域の土地利用方式と経営方式が異なる方向へ展開しているということである。これは,沖縄県が市場から遠隔地にある離島群によって構成されているために自由市場商品作物の導入においては,地理的立地条件に伴う流通条件に差異を生じ,土地利用上における作物構成に地域的な差異が生じたことがその要因となっている。地域別の作付方式及び経営方式をまとめると表1及び表2のようになる。すなわち,土地利用(作付け方式)の面においてはサトウキビはなお全地域で第1位の地位にあるが,その地位は低下している。
- 1999-12-01
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