宿主に対する同種血清アルブミンの不適合性に関する臨床的ならびに基礎的研究
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概要
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ある程度以上の量の出血があると, それに見合った量の輸血が行なわれた場合でも, 術後に一過性の低アルブミン血症が招来される。その原因については, 種々の考え方があるが, 寺松は, 各種の実験結果から, 輸血された血液中のアルブミンには宿主に対する不適合性, すなわち個体特異性ともいうべきものがあり, これが術後に低アルブミン血症を招来する主なる原因ではなかろうかと考えている。著者は, この点を確かめる目的で, 以下の臨床的ならびに基礎的実験を行なった。第1篇では, 臨床的に, 術後に招来される一過性の低アルブミン血症の原因について, 生化学的に, とくに血清アルブミンの細分画像の動態を中心として検討した。また, 第2篇では, 螢光色素標識アルブミンを用い, これを元の動物および他の動物の静脈内にそれぞれ別個に注入し, 静注されたアルブミンが宿主の体内でどのように処理されるかについて検討した。以上の諸実験の成績について考察した結果, 以下の結論をえた。(1) 2000cc以上の出血があると, 適量輸血が行なわれた場合でも, 大多数において一過性の低アルブミン血症が招来される。すなわち, 血清中のアルブミン量は術後1日目から8日目までは次第に減少し, その後1カ月以内に正常値に復帰する。(2) 同時に行なった, ハイドロオキシルアパタイト・カラムクロマトグラフィーによる血清アルブミン細分画の成績では, 燐酸緩衝液0.07M, pH6.8で溶出されるFr. IIは, 術後8∿15日目までは減少しつづけ, その後徐々に回復してほぼ1カ月で術前値に復帰する。すなわち, 血清アルブミン量の回復と血清アルブミン細分画像の回復との間には, 時間的なずれが認められる。(3) つぎに, 実験的に螢光色素FITC標識アルブミン液を静注した後, 血清中からするFITCの消失過程をみると, 他家アルブミン静注群の方が自家アルブミン静注群の場合に比べてより短期間に消褪する。(4) 著者の作製した標識アルブミン液はFr. Iをより多く含んでおり, この関係から, 静注後における宿主の血清アルブミンもまたFr. Iを多く含んでいる。時間の経過とともに, Fr. Iは減少し, これに対応してFr. IIが増加する。(5) 以上の諸成績から, 少なくとも他家アルブミンの細分画中のFr. Iには宿主不適合性があると考えて差支えない。(6) 主としてFr. Iからなる標識アルブミンの血管内から組織中への流出状況について螢光顕微鏡を用いて組織学的に検討した結果では, 標識アルブミンと思われる螢光物質は, 血管内における生化学的な濃度に比例して, 細血管内や組織液内に存在しており, 他家アルブミンが異物としてとくに細胞に貪喰せられ, 分解されているという証拠は認められない。また, 組織の栄養蛋白として利用されているという所見も認められない。(7) 以上の諸成績から, Fr. Iは生化学的には比較的安定で, 組織蛋白としても利用されがたいものであるが, Fr. IIは生化学的にも不安定で, 活性も高く, 臓器の栄養蛋白として生体内で絶えず合成されるものと考えられる。(8) 以上を, 他家血輸血によってはアルブミン細分画中のFr. IIが補充され難いという第1篇の結論に併せ考察した結果, 同種他家血清アルブミンの細分画では, 宿主不適合性は, Fr. IよりもFr. IIの方に, はるかに高いことを知った。
- 京都大学の論文