4. 1 自動電離 (Autoionization) : 理論の立場から
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概要
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原子の自動電離は多くの場合電子間の相関相互作用によって起る。Fanoはこれを連続状態とそれに埋もれている離散状態の間の配位間相互作用による効果として説明した。配位間相互作用の大きさГは, 離散状態の波動関数をφ, 連続状態の波動関数をψ, そして系のハミルトニアンをHとして, Г=|<φ1H1ψ<|で与えられる。Гは自動電離状態の共鳴巾を与える。Гは原子単位で測って自動電離状態の寿命の逆数になる。自動電離過程 : A^<**>→A^++eと共鳴散乱過程 : e+A^+→A^<**>→A^++eは理論的には等価である。実験的にГの値を求める場合, 従って, 次のような実験のうち可能な一つを調べればいい;(1)自動電離状態の寿命, (2)光吸収スペクトル, (3)射出電子スペクトル, (4)荷電粒子衝撃の際のエネルギー損失スペクトル, (5)共鳴散乱。2種類以上の実験ができる場合には交互検定の有力な手段となる。共鳴スペクトルの形状を決定する物理量はГの他に"Fanoのqパラメータ"がある。qの値は上記の過程毎に異なる。微分断面積のスペクトル中では射出(散乱)角毎に異った値を持つ。qは, 大雑把には, 共鳴励起(散乱)の強さに対する背景励起(散乱)の強さの程度を示す指標であると言えよう。電離(散乱)電子のエネルギーをE, 共鳴状態のエネルギーをErとし, ⋴=(E-Er)/(Γ/2)とおけば共鳴スペクトルの形, I (⋴), は次式のFanoの形状関数 : I (⋴)∝(q+⋴)^2/(1+⋴^2) (1)で与えられる。(1)式を実験で得られるスペクトルにあてはめて, q, Γ及びE_rを実験的に決めることができる。qの定義は過程毎に異なる。⋴の定義は前記の全ての過程に共通である。従って全ての過程から同一のE_r, Γが得られる。自動電離状態のエネルギー準位Erと共鳴中Γを理論的に求める方法には大別して次の二っがある;[○!a]自動電離状態を計算で直接求める方法, [○!b]共鳴散乱の位相のすれ(phase shift)を計算し, そのエネルギー依存性からErとΓを割り出す方法。理論的には両者のどちらによっても同じ値が得られる筈であり, 両者を区別しないで議論することも多い。自動電離状態の計算法には次のようなものがある;[○!α]射影演算子法(Projection operator formalism)^2,[○!β]緊密結合法(close coupling method), [○!γ]変分法, [○!δ]安定化法(Stabilization method), [○!ε]R行列法, その他。射影演算子法は状態空間を開いた状態P(電離状態)と閉じた状態Q(共鳴状態)に分割する。系の波動関数をΨとすると, Ψ=PΨ+QΨである。開いた状態が満たすシュレーディンガー方程式は次のように書ける : P(H+PHQ[Q(E^+-H)Q]^<-1>QHP-E)PΨ=0 (2) PとQを適当な基底関数系で展開すれば緊密結合法になる。展開を物理的に重要だと考えられる有限項に限り連立微積分方程式の形にして数値解を求める方法はよく用いられる。緊密結合法といえば普通これを指す。Burke等の緊密結合法を用いた精力的な計算がある。Bhatia等が射影演算子法を用いて精密な計算を行っている。変分法にはRubimowの方法, Hulthemの方法, あるいはKohnの方法等がある。大規模な数値計算が行われている。物理的には無意味なにせの共鳴があらわれることがあるので注意が必要であるが極めて有力な手法の一つである。安定化法は, 通常の変分法を用いて試行関数の数を増していったときのエネルギー固有値の挙動を利用する。試行関数の数の増加に対してエネルギー固有値が変化しない所を見出しそれを共鳴準位E_rとする。模大な計算量を必要とする事が多い。R行列法は近年特に注目され始めており, この方法に基く計算結果が今後多数出てくることが期待される。その他の方法としては, 配位間相互作用法, 多体問題的取扱い, 超球座標による方法, 複素座標による方法等がある。
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