<平成 13 年度(2002 年 3 月)修士論文要旨>地方自治体における「行政評価」の導入による組織変革と地方分権時代における「地域」の経営戦略に関する研究
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概要
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「行政評価」は, 日本の自治体において1990年代末の5年間に急速に普及しつつある制度であり, 行政評価手法などの研究自体も急速に増加している。しかし, 近年の行政評価をめぐる議論は論者によって多様であり, 行政評価の手法の理論に関する研究と実務現場における実務者の認識との間には隔たりが大きい。地方自治体の行政実務の現場における「事務事業評価」などを端緒とする行政評価制度の導入の意義と革新性は, 自治体の組織変革の過程において, 既存の行政組織にフィットした簡便で実用的なツールとして, マネジメント改革の梃子としての作用しえた点にある。本稿では, 民間企業における経営理念・手法, 成功事例などを行政現場に導入を通じて行政部門の効率化・活性化を図るニュー・パブリック・マネジメントを基本に, オズボーンの言うReinvention(政府の再発明)という観点から, 地方自治体の「組織変革」に行政評価の果たした役割の分析を通じ, 自治体という組織の改革に必要な条件を明らかにしている。行政評価とは, アメリカ流のパフォーマンス・メジャーメント, パフォーマンス・モニタリング(業績測定・監視)が, 政策科学や経営学の素地が不十分であった日本の地方自治体において, 「事務事業評価」等という日本独自の形に変形・制度化され, 実務のなかで確立されてきた概念である。行政評価制度は, 官僚制組織のなかに, 予算・事務・事業といった既存の行政組織の基本的スキーマを用いて, 業務の継続的改善と成果志向のマネジメントを, 事後的に埋め込み, 組織の根源的な仮定として働いてきた組織文化の見直しを迫るツールとして作用しうる。しかし, 単に評価制度を導入しても行政の抱える問題が明らかにされるだけであってそれらが解決されるわけではない。三重県の事例を検証すると, 行政評価は組織全体の「総合的な変革」のなかにおいて, 職員の「意識改革」の有効なツールの一つとして役割を果たしたことがわかる。このため, 組織の総合的な変革という観点から, 一つの有益なツールとして行政評価システムを捉えて導入・活用していくことが, 重要である。このような組織変革を明確に意識した改革を実践している事例として, 福岡市の「DNA2002計画」がある。この計画の革新性は, 大企業の変革プログラムを行政組織において適用できることを実証した点にあり, 日本におけるニュー・パブリック・マネジメントの体系的な実践として注目される。三重県などの先進自治体の変革は, 従来までの「減量経営」に終始してきた日本の古典的な行政改革手法とは, 組織のマネジメントを明確に意識している点で一線を画している。自治体におけるマネジメント改革は, 制度的な側面から見れば, 中央集権的な地方自治の伝統のもとでアメリカ的な住民自治制度を採用してきた日本の自治制度の内包していた矛盾から生まれた内発的なイノベーションであるといえる。日本の地方自治体におけるの民間的経営手法を行政運営に取り入れようとするマネジメント改革は, 日本においても「行政経営」という概念が成立しつつあることを示している。この動きは, 1980年代以降の先進諸国におけるNew Public Management等と呼ばれるような, 「管理」から「経営」へという世界的な公的セクターにおけるマネジメントの現代化・近代化改革の潮流のなかに位置付けられるものである。一方, こうした公的セクターのマネジメントの革新は, 議会と首長という二元代表制を採用する日本の地方自治制度においては, 情報公開による政策過程・政治過程のプロセスが透明化され, 首長の政策・ビジョンの施策事業へ明確に反映されることとなることから, 議会を中心とした既存の利害調整システムを相対的に陳腐化させ首長へのパワーシフトをもたらす政治的なインパクトを併せ持っている。行政評価制度の導入など公的セクターにおけるマネジメントシステムや制度の設計には, 地域におけるガバナンスの視点から多面的かつ慎重に考察される必要がある。「行政経営」という概念も住民自治という観点からは検討されるべき余地がある。しかし, 行政評価制度の導入などの地方発の自律的な改革は, 戦後50年以上経て, 自治体が主体的な能力を発揮し始めた点で「地方分権」が実質的に進展している証として積極的に評価されるべきである。現在の地域におけるパブリック・マネジメントの課題は, 「公」の担い手となる各主体間のパートナーシップのもと, 地域におけるガバナンスを再構築していくことにある。行政評価システムは, 単に組織内部のマネジメントを超えて, 「地域」という住民自治の「場」における, 地域の政策をアジェンダとして形成し, 地域としての「戦略」を学習し共有していくためのソーシャルキャピタルを形成する基盤として発展していくことが期待されている。
- 2002-03-20
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