中国の飼料自給力に関する長期予測とその日本への影響
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概要
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中国における畜産物に対する需要,必要とされる家畜頭羽数,人の食料と家畜飼料の需要を満たしうる中国の能力について,2010年,2020年,2030年の予測を示す.水産物の国内需要と水産物輸出の影響についても同様に予測を示す.なぜ中国は畜産物や水産物の自給率を現在の水準で維持できるのかについて,その正当性を示したい.中国はエネルギー飼料については要求量を十分に満たすことができるが,タンパク質飼料については引き続きそして今以上の輸入国となるであろう.しかし,経済的な見通しから,これらの輸入は作物の輸出と特に水産物の輸出と相殺されうる.中国における飼料の種類とその栄養価,ならびにその使用方法の多様性のため,本研究において予測のためのプログラム作成については代謝エネルギーと粗タンパク質をベースとしてすべての家畜(魚の養殖も含む)要求量と利用性の計算を行った.この800の変数と2200以上のパラメータを用いた非決定性シミュレーションのスプレッドシートプログラムによる予測はこれまでに実際に起こったことと極めて近い値を示していることからその妥当性が示されている.また,技術開発とその生産への影響の詳細な分析も可能にしている点は特筆できる.一人当たりの消費量に関する予測は中程度の好景気時期をベースとしている.飼料の要求量や利用性に関する予測はバイオテクノロジーが作物や家畜生産に好影響を与えるであろうという比較的控えめなものである.パラメータは,作物の生産性や家畜生産に関して中国や海外においてすでに知られているか,実際に採用されている技術に基づいて設定されている.作物生産や飼料生産に影響する,水の利用性や気候変動を含む,中国の天然資源に関する制限要因についても考慮してある.肉と卵の消費量は2000年から2030年の30年間にそれぞれ40%と24%増加すると予想された.しかしながら,畜産と水産における構造的な変化と生産性の向上のため,ブタと家禽の数は2000年に比べて2030年には減少すると予想されている.役用の大型家畜は2000年の数値の25%ほどになり,そのために用いられていた飼料は他の目的に利用できるようになる.一人当たりの牛乳消費量は30年間で7 kgから40 kgに増加するが,乳牛1頭あたりの牛乳生産量は引き続き低く,乳牛の頭数は現在の水準をやや超える程度である.肉牛の生産性は2000年から2030年に向けて75%増加すると予測される.しかし,1 kgの牛肉を生産するのに必要とされる飼料はやや減少するだけで,結果として実質的な飼料要求量は増加する.政府はトウモロコシ茎葉のような処理をした粗飼料のような,低・未利用資源の飼料利用を推進しており,政策は牛肉生産にとって非常に重要なものとなっている.これらの低未利用飼料資源は反芻家畜用飼料として利用されるものであり,もしバイオエタノール生産のためのエネルギー源としてセルロース資材の利用を政策が推進するならば,タンパク質の輸入に大きな影響を与えかねない.水産養殖は中国における飼料用タンパク質要求量の25%を占める.生産面積のさらなる拡大はタンパク質飼料の実質的な輸入を促進する.肉牛や水産養殖における飼料の使用量の変化が適度であれば,大豆の輸入(タンパク質源としての輸入の大多数を占める)は現在の約3500万トンから2020年には約6000万トンになる.中国の畜産と水産養殖に関する飼料利用を参考にすると,日本は食料の自給率を向上できると思われる.予測のモデルに中国のバイオエタノール生産のプログラムを組み込むことから一つの例を示すことができる.スウィートソルガムは主要なエネルギー原料であり,莫大な生産量を示す(1 haあたり約70トンの茎と4トンの穀実).その潜在的な影響力を検討するため,日本における耕作放棄地の問題(耕作可能地の約10%)を取り上げたい.反芻家畜の優れた飼料であり,世界中で広く利用されているスウィートソルガムを耕作放棄地の半分に植え付けるならば,栄養学的に日本の肉牛生産すべてに必要な飼料のかなりの部分を補うことができる.一方,警告として,中国は農産物や水産物について輸出振興策をとり,機会に応じてその生産量を調整する能力を持っている.もし日本がWTO貿易交渉のドーハラウンドや将来のラウンド,あるいは二国間の条約において関税の削減を強いられるならば,中国は日本の食料輸入量のシェアを拡大するに違いない.
- 2009-11-25