心身医学の進歩とは
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概要
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「心療内科」という文字が街角で目に入るような時代になっている. 「心身症」ということばも新聞やテレビでしばしば目にし, 耳にする. 「心身症」が心療内科で十分対応できているのかどうか, 「心療内科」を受診する患者が心身症なのかどうかという懸念もあるが, 心療内科や心身症の社会的な認知が進んでいることは非常に喜ばしいことである. 実際, 心身症の診断法や治療法も大きく発展し, マニュアル化も進んでいる. 基礎的な分野でも神経科学, 脳科学, 認知神経科学の発展とともに, 心身症の病態メカニズムやその脳内過程もかなり解明されている. 「心身一如」も手の届かない領域の概念から, さまざまな例を示すことのできる, 当たり前の概念になりつつある. 家族や社会の構造が変わり, ストレスが増加し, 心身症が増加している中で, 心身医学が学問として, また専門臨床分野として確立されつつあることは時代の要請である. 断片化と高度化による高コスト医療により医療経済が破綻しかかっている現代社会で, 患者全体を家庭や社会を含めて対処しようとする心身医学の果たすべき役割は大きい. とはいうものの, 心身医学が本当の意味で進歩したのか疑問の部分がある. 心身医学が臨床分野および基礎分野でいかに進歩しても心身症の患者が減ることはなく, 増加しているのが現状である. これまでの心身医学の進歩は病気をなくす方向には作用していない. 心身症が激増しているのに, 心身医学が進歩したとはいいづらい. これは心身医学に限らず医学全般にもあてはまることである. 診断法の進歩は病人を「早期発見」する. 治療法の進歩は病気のコントロールを改善するだけにとどまり, 病人としての時間を延長することが多い. 病気をなくさず, 「病悩期間」を延長することが, 医療経済を圧迫する要因の1つになっている. 根本的な問題の解決は, やはり病気をなくす, あるいは病気にならないことである. 現在のさまざまな進歩はこの根本的な解決に結びついていない場合が多い. 心身症の発症要因の基盤となるストレス反応は, 一般的には病的な現象と考えられている. しかし, 生体内あるいは脳内の反応過程を調べるかぎりでは, その本体は生体防御的な適応反応として理解できる. 現代社会では, 情動障害をはじめ, 肥満や摂食障害, 生殖障害, 免疫異常が増加しており, これらはすべて心身症の増加に連結している. これまでこれらの病態を理解しようと脳を調べても, 脳の中のさまざまな変化の大半は病気の原因を示しているのではなく, 病気に対処しようとしている防御反応の結果を示している. 脳のシステム自体は実にうまくできており, 脳の中だけをみても原因はみえてこないというのが実感である. 現在, われわれをとりまく環境が大きく変化している. さまざまな環境変化が, 脳による心と体の調節機構に影響を及ぼし, その結果としてさまざまな健康問題を引き起こしているのではないかと思われる. その証拠も蓄積されている. 心身医学の進歩にもかかわらず, 心身症の患者が激増している今日, 新しい視点からのアプローチが必要ではないだろうか. 「環境」は心身医学にとっても重要なキーワードの1つである.
- 2004-10-01
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